「言ったもの勝ち」のアメリカ?



欧米人、とりわけアメリカ人は自己主張が強いと言われています。
噂には聞いていたものの、とにかく主張が強い、そして人の話を聞かない、滅多なことでは謝らない彼ら。その押しの強さは一体どこから来るのか、そして私たち日本人はそれにどう対処していけばいいのか、息子に起きたある出来事を通じて考えてみました。





テニスの試合は口喧嘩


USTA(全米テニス協会)に登録し、毎週末試合に明け暮れている息子。
試合はセルフジャッジで行われるのが一般的です(セルフジャッジ:審判が存在せず、プレーヤー同士でジャッジを行う)。

さて、先週末のダブルスの試合でのこと。

劣勢を覆せない相手ペア。点を取られたくないあまり、どんなボールでも自分達が打ち損ねると「今のはアウトだった」と言うようになりました。それも判断の難しいギリギリのボールだけではなく、インしていることが誰の目から見ても明らかなボールでもです。
しかしセルフジャッジの試合では、相手のコートサイドのジャッジ(自分のショットの判定)は相手プレーヤーに任せます。自分が打ったボールが「絶対に入ってる」と思っても、相手プレーヤーに「アウト」とジャッジされたら、基本的に異議申立てできないのです。

そのうちに、相手ペアはポイントのカウントまで自分たちに有利なように誤魔化すようになりました。今まで黙っていた息子側もさすがにそれは許せないと、ネットを挟んで両ペアによる口論が始まりました。論理的に正しいカウントを証明しようとする息子側ペア、対して相手側は大きな声で感情的に、威嚇するようにまくしたてています。

数分後、騒ぎに気付いたコーチがやってきて子供達にこう言い放ちました。
「相手の言っていることがおかしいと思ったら、相手が納得するまでとことんディスカッションしなさい。そして自分が納得するまで決してゲームを再開してはいけません。」


息子はコーチに対して
・第三者(例えば観戦していたチームメイトや大人)に確認して、どちらの言い分が正しいのか証明してもらう
・相手ペアのアンフェアなプレーを注意して、紳士的に振る舞うよう指導する
ということを期待していましたし、コーチがなんとかしてくれるだろうと言う一種の「甘え」もありました。
ですから、コーチの対応には驚きもし、がっかりもしたようです。
それもそうでしょう、どちらが正しいことをしているかは問題とされず、相手を言い負かしたほうが勝者であると言われたも同然なのですから!
事実よりも主張が尊重されるこの国では、自分がどんなに正しくても、黙っていると「負け」てしまいます。自分が行動を起こさなければ、誰も助けてくれません。それを身をもって学んだ貴重な経験でした。







「言ったもの勝ち」はグローバルスタンダード?


さて後日、この話を息子の同級生のお母さんにしたところ、中国人の彼女からこんな諺を教えてもらいました。


「会哭的孩子有糖吃」
訳:泣く子はミルクをもらえる/中国

不満や要求を発言したり行動に出したりすれば、人より有利に立てる という意味だそうです。調べてみると世界各国に同じ意味の諺がありました。



「The squeaking wheel gets the grease」
きしむ車輪は油をさしてもらえる/アメリカ


「El que no llora no mama」
泣かない子供はミルクがもらえない/スペイン





「우는 아이 떡 하나 더 준다」
泣く子に余計にひとつ餅を与える/韓国




一方、日本人は「武士は食わねど高楊枝」。お腹が空いていても(困っていても)それを顔に出さないことを美徳とし、他人の立場を顧みず自分の権利を主張することに罪悪感を感じてしまう人も多いように思います。言ったもの勝ちのルールは、グローバルスタンダードなのでしょうか。日本人の自己主張の苦手さ、奥ゆかしさは国際社会における日本の弱みでしかないのでしょうか?







日本人の「傾聴」に学ぶ

しかし、一方で、自己主張が強すぎて逆に人の話を聴くことの苦手なアメリカ人を問題視し、傾聴を大切にする日本の「以心伝心」な理解を取り入れようとする動きもあります。

スタンフォード大學の心理学者であるスティーブン・マーフィー・重松氏が提唱するマインドフルネスは、yahooやGoogle等シリコンバレーの有名企業で社員研修に取り入れらるほど、需要が高まっている概念です。彼の著書の中で、マインドフルな状態である為に、いかに傾聴が大切であるかが語られています。



「スタンフォードのどのクラスでも、私は聴くことの大切さを教えている。他の大学でも同じだが、学生たちは主に一方通行のコミュニケーション感を教え込まれているからだ。彼らは主張し、論じ、説き、相手を納得させ、影響を与え、自分の考えを伝えるということに実に長けている。それに対し、聴く能力ははるかに限られていると言わざるを得ない。頭の中は、どのようにして自分の考えを述べて議論に勝利するかでいっぱいなのである」
「もっとも優れたリーダーを見ると、話がうまいだけではなく、聴く力も備えている。もっとも優れたリーダーとは、先を見越して行動することができ、戦略的で、かつ直感的に聞くような人物だ。知識や智慧を授かるには話すよりも聴くべきである事を知っている。また、行間を読む達人であり、話されなかったことや、目に映らず、耳にも聞こえない何かを理解する鋭い力を持っている」

引用元:スティーヴン・マーフィ重松(2016)
『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』








ちなみに息子のテニスの試合は、口論のせいで時間切れとなり、リードしていた息子側ペアの勝利となりました。もし彼らが時間切れを見越してあえて舌戦に付き合っていたのだとしたら、子どもながらなかなかに戦略的ですね!

日本式コミュニケーションの奥ゆかしさを失わず、アメリカ流の鼻っ柱が強い自己主張もいつかは身につけ、この多様性あふれるシリコンバレーを生きていけば、きっと世界中どこでも通用する世渡り上手になれることでしょう。

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